スマート駄目リーマンの忘備録

旅行記、キャリア論、世相分析など思ったことを書き連ねます

ロシアワールドカップ観戦記(満州里→北京)

 日本対ポーランド戦をワンセグで見終わってしばらくすると、北京行きの発車のアナウンスが報じられた。客車に乗り込んでしばらくすると、列車は発車した。列車はホーム脇にある「一帯一路」の赤いネオンの横をすり抜ける。市街を抜けると車窓は漆黒の闇。今日は国境審査で精神的にヘトヘトであり、すぐに就寝した。

 中国国内の線路インフラの整備が進んでおり、列車はかなりの速度で中国国内を快走した。おそらく最高時速は120kmくらい出ていたのではと思う。揺れも少なく、快適に眠ることが出来た。

 翌朝は昼前に昨日一緒にサッカーを見た一同が食堂車に会して、ビール片手にひたすらポーカーに興じた。

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中国の車窓とビールとポーカー

 メンバーにはペルー人医師の他にはマカオのカジノディーラーの女性、ロンドンのキングスカレッジでコンピューターサイエンスを学んでいる学生などがいた。聞くところによるとロンドンから鉄道だけを乗り継いで来たとのことだ。ロンドンからモスクワまでは楽に行けたが、やはりシベリア鉄道には難儀したとのことであった。

 ポーカーはカジノディーラーの一人勝ち。流石である。ポーカーを終えた後はそれぞれのお国事情や自身の生い立ちなどの話で盛り上がった。

 私はロシアと日本には未解決の北方領土問題が横たわっていることを話題にした。日本では何かと話題が及ぶ北方領土問題であるが、日本以外では縁遠い問題で、国際的な関心は低い印象を受けた。皆、そうした問題が日本とロシアの間に存在すること自体、今日初めて知ったとのことだ。

 日本もロイターのような国際的なマスコミを有し、日本が抱える国際問題を世界に発信し、国際世論を味方につける必要がある。北方領土問題は香港の共産党支配、台湾海峡問題と同じくらい大切な問題である。

 しかしながら、サハリンの天然ガスパイプラインプロジェクトシベリア鉄道での国際貨物運搬プロジェクトなどロシアは日本の国益にプラスにもなることも事実。北方領土問題でロシアを過剰に刺激して、日本の国益を損ねてはならない。日ロ間の複雑に絡み合う利害が、この問題を難しくしている。

 コンピューターサイエンスを専攻している男子学生とペルー人の皮膚科医師の間で、皮膚疾患の画像診断アルゴリズムの話にも花が咲いた。実際にアプリを起動して、改善点やアイデアをぶつけ合う。

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画像診断アプリ

 澳門のカジノのディーラーからは先ほどのポーカーの戦略について、手ほどきを受けた。コンピューターサイエンス専攻の学生はセンスが良く、その戦略の有効性について瞬く間に理解を示した。私は、理解が追い付かず何度も説明を受ける。彼らは快く身振り手振りで、私が納得するまで説明してくれた。

 私たちの座るテーブルの端にはいつしか空のビール瓶が、十本近く溜まっていた。昼間からビール片手にポーカー三昧。それに飽きたら、雑談に興じる。今日はずいぶん贅沢な時間を過ごしたものだ。

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heinekenビール

 飛行機でひとっとび出来るこのご時世、ワザワザ列車で一週間近くかけて行くのだ。しかも料金は飛行機よりも高い。個性の強い物好きな人が多いのだろう。ビールの酔いが回ったのと、会話に頭を使い、疲れたので早めに就寝した。

 翌朝は社内のアナウンスで目が覚めた。北京まで一時間ほどで到着するとのことだ。列車の長旅もあと少し。シベリア鉄道の車窓に飽きる時もあったが、社内での素敵な出会いのおかげで、充実した時を過ごすことが出来た。旅を彩どってくれた出会いに心から感謝した。

 車窓から臨む道路、ビルの様子から大都市北京が近いことを実感する。やがて列車は速度を落としながら、北京駅のホームへ滑り込んだ。

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北京までもう少し

 エカテリンブルクから列車で北京まで本当に辿り着いたのだ。地理の学習でアジアとヨーロッパはユーラシア大陸で陸続きであるのは勿論知っている。しかし、ヨーロッパからアジアを包括するユーラシア大陸の広大さ、多様性は、シベリア鉄道を乗ることでしか体感出来ないだろう。

 

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ロシア国鉄の客車が鎮座するホーム

 客車に常駐し、掃除や身の回りのお世話の手伝いに従事してくれた車掌さんに挨拶をし、北京駅のホームに降り立つ。漢字の構内表示、横で飛び交う北京語。改めて中国に来たのだと実感を嚙み締めた。

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北京駅舎

 昨日からのメンバーと一緒に改札を抜けて、駅の玄関に向かった。最後に皆で記念撮影をして、ここまでの苦労を労いあった。

 皆はこの後レストランで食事をするが、私は3時間後に東京行の飛行機に乗らねばならず、後ろ髪をひかれる思いで、皆と握手を交わし、お別れの挨拶をした。

 みんな、本当にどうもありがとう。

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皆さんお疲れ様でした。

 彼らに別れを告げて、振り返らずに、私は地下鉄の駅を目指した。彼らを振り返ったら、戻ってしまいたい衝動に駆られそうだ。複雑にうごめく、それぞれの人生がシベリア鉄道で一瞬交わり、また遥か彼方にバラバラに散らばっていく。