スマート駄目リーマンの忘備録

旅行記、キャリア論、世相分析など思ったことを書き連ねます

ロシアワールドカップ観戦記(シベリア鉄道中編)

 ノボシビルスクからは、青年とその母親がコンパートメントの向かいに乗り込んで来た。話すところによると彼はレスリングでロシアのナショナルチームに所属しているとの事だ。体付きが屈強なのはそうした理由があるのか。 

 お昼ご飯の時間を迎えると、青年の母親が下から手招きしてくれて、一緒に食べようというジェスチャーをした。かたじけないが、お言葉に甘えることに。肉やニンニクを大葉で包んだ料理とゆで卵を食べ切れないほど頂いた。終始、善意に感謝しっぱなしである。自分で乗車前に色々食料品を買い込んだが、善意の綱渡りをやり続けたら、自分で用意する必要がないんじゃないかとすら思えた。 

 エカテリンブルクから一緒の沿岸警備隊の軍人。隣のコンパートメントのペルー人も輪に加わり、即席の国際宴会場に早変わり。ペルー人は現在スペインの病院の皮膚科で働く医師で、ロシアワールドカップを見て、せっかくの機会なのでシベリア鉄道を堪能するのだそうだ。

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おばちゃん 御飯ご馳走してくれてありがとう

 せっかくの機会なので、スペインの医療事情をインタビュー。スペインの公立病院の整備は十分ではなく、予約から診療まで月単位を要するとの事だ。そのペルー人医師の彼は皮膚科医である。彼は現在皮膚疾患を患者がスマホで撮影し、それを医師に送る事で迅速な診断をするプロジェクトに参画しているとの事だ。カメラの光加減やアプリケーションなど、疾患以外に検討課題が山積みだが、なんとか普及させて医療難民の削減を成し遂げたいと語ってくれた。ペルーには日系人が多いせいもあり、私に対して親しみを持って接してくれた。嬉しいことにポケットwifiの電波を貸してくれて、読書に飽きた時にはネットサーフィンに興じる事が出来た。

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タイガの風景

 読み続けていた「失敗の本質」も佳境に入る。インパール作戦の無茶振りっぷりに頭を抱えたくなった。上官の温情で部下の無茶な作戦にgoサインを出し、万単位の命を犠牲にした。一体、軍人の意識は何処に向いていたのか? 部下の命を守ることよりも、保身や立身出世が大事なのか?考えさせられる事が、大いにある。そうであるにも関わらず、学校の歴史教育で深く取り上げられていない事に不甲斐なさを感じた。

 長旅に疲れで、横になる。車窓が常に明るく、体内時計が完全に狂ってしまった。そのため常に眠たい。社内の給湯器で作ったインスタントコーヒーを飲んで、眠気を覚ます。日本の緑茶が恋しくなってきた。社内で食べるインスタントラーメンの味にも飽きて、カップヌードル赤いきつねを食べたくなってきた。

エカテリンブルクを発ってから3~4日経過したが、ずっとシャワーを浴びていない。日本から持ち込んだデオドラントシートで、体をふいてごまかす。日本の温泉が恋しくなる。歯磨きは一日に一回社内のトイレで短時間で済ましていた。毎食後に磨きたいのが本音である。

 シベリア鉄道は快適に旅を楽しむというよりも、地球の大きさを体全体でかみしめる修行というか儀式に近い。快適さを追求するならば、飛行機に乗った方が良いだろう。しかし、私はシベリア鉄道に乗ることを選択したのだ。

 列車はやがてクラノヤルスクに差し掛かる。レスリンナショナルチームの彼と彼の母親はそこで下車して行った。

 最後にお別れの挨拶を交わした。シベリア鉄道では毎日、出会いと別れがひっきりなしに交錯する。人生に出会いと別れは付き物であるが、それが短い時間に凝縮される。出会いによる驚きと喜び、別れのモノ悲しさ。

機関車の付け替えで少し時間があったので、ホームに出て機関車を撮影した。青い機関車と青空。

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機関車

 鉄道の旅もここから終盤に差し掛かっていく。これから先はロシアのチタと中国の満州里間で中ロの国境検問が立ちはだかる。リトアニアビリニュスとロシアのカリーニングラードの国境検問に難儀したこともあり、一抹の不安がよぎってくる。事前に日本語のインターネットサイトで情報収集を行ったが、チタと満州里の国境越えについての記事は情報は皆無であった。

 どうか無事で楽しく旅を終えられますように!列車をけん引する機関車に思わず願いを込めた。

 

P.S

 しかし残念ながら、不安は的中したのであった。一足早くお伝えするが、日本人が陸路での中ロの国境越えをする事はお勧めしない。TOEIC900(英検準一級、IELTS6.0~6.5)以上の英語力、交渉力などが必要である。バックパッカー検定があるとしたら、上級レベルと言って良いだろう。北方領土問題が絡み、ロシア極東地域は日本人に対して強い警戒感を抱いている。私はその後、国境検問所で人権を踏みにじられる屈辱を味わうことになるのであった。

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