スマート駄目リーマンの忘備録

旅行記、キャリア論、世相分析など思ったことを書き連ねます

長い春休み(東日本大震災の記憶)クアラルンプール編

目覚めると、生ぬるいシャワーを浴びてツインタワーを目指す。ツインタワー付近のカフェでパンケーキの朝食をとる。マレーシアではシンガポールと比較して、物価が1/3~1/2程度になったので、少し贅沢な食事でもへっちゃらだった。シンガポールでのひもじさを振り払うかのごとく、パンケーキにたっぷりと蜂蜜をかける。外へ目を向けると日本人の駐在員風のサラリーマンたちが続々とツインタワーへ吸い込まれていく。10時くらいになったら、ツインタワーに登ってみようと決意し、それまではカフェでのんびりすることにした。カフェの窓から見えるツインタワーに圧倒される。一昔前まで途上国であったマレーシアも立派に経済発展を遂げている。その経済発展の勢いを象徴するかの如く、ツインタワーは東南アジアの眩しい陽光の中で鎮座していた。

待ちを行きかう人達に活気を感じた。経済成長率は日本が4%程なのに対し、マレーシアのそれは7%だったのも十分うなずける。何よりも新しいものを受け入れる解放感を感じた。2008年のリーマンショックから言い知れない閉塞感に日本は襲われていたことに思いを馳せる。リーマンショック以来、自分が所属していた会社は社内語学研修、家賃補助などが経費節減の理由で廃止されていった。自分は語学研修で韓国語を学んでいたが、教科書の全てを終えることなく、リーマンショックの一か月後に語学研修は廃止された。その廃止を先導した総務部のある人物は会社の経費節減に貢献したということで、人事評価の査定でAを貰ったそうだ。馬鹿げている。社員の能力upの機会を奪って、A査定だと?!こういうときだからこそ、来る好景気に向けて腰を据えて能力開発に取り組むべきなのではないか?そして、本来ならば身体を張ってでも語学研修を継続させた者が、真に評価されるべきなのではないだろうか?失われた10年、ITバブルの崩壊に苦しんでいた日本企業は2000年代から次々に成果主義を導入した。私が所属していた会社もご多分に漏れずに形ばかりの成果主義を導入していた。確かに短期的成果であれば、語学研修の廃止は成果なのだろう。しかし、長期的にはどうだろうか?社員の能力開発の機会や向上心を奪い、人の集合体である会社の伸びも頭打ちになってしまうのではないだろうか?リーマンショックの当時、私は労働員会の職場担当役員を任されていた。労働員会であって、労働組合ではなく、団体交渉権も、ストライキ権も無い。名ばかりの組織であった。リーマンショック後の経費見直しで、家族持ちの家賃補助が廃止になった。そのことを職場の連絡会で、私が報告しなくてはいけなかった。サービス残業が横行していたが、家賃補助があったおかげで、何とか正社員の心をつなぎとめていた。それだけに、それを聞いた設計課員は深く嘆息し、さらにうなだれる者が後を絶たなかった。彼らのあの顔は一生忘れないだろう。経済水準はまだ日本よりも貧しいが、まだ明るい未来を見れるマレーシアを少しうらやましく感じた。

 気が付くとパンケーキに付随したホットコーヒーは生ぬるくなっていた。時計を見ると10時前。ツインタワーに向かうんだった。入口には入居テナント一覧が掲示されていた。MITSUI & CO., LTD.が目に飛び込む。先ほど見かけたサラリーマンの一部は三井物産の社員だったのかもしれない。入場券を購入し、エレベーター入口に並ぶ。私の前には日本人風の女性がいた。話しかけると、中国人だった。名前は田笑。Your name sounds good.と思わず、声が漏れる。彼女はカンボジアを旅し、バスでマレー半島を南下中とのことだった。ラオスカンボジア国境にほど近いコーンパペンの滝をイチオシされた。震災のトラウマで高いところに行くことに若干の緊張感を覚えていたが、彼女のおかげでそれも和らいだ。展望台に上がり、景色を眺めた後はツインタワーの中の紀伊国屋に立ち寄った。そこは日本語の書籍が充実していた。ここ数日は英語に触れてばかり、日本語の活字に飢えていた。価格は日本の四割増しだったが、カバンに入るだけの本を買い込む。読み終わった本はバンコクの友達にあげればいい。小説はあまり買わずに自己啓発本やビジネス書の類を沢山購入した。普段は手に取らない勝間和代さんの本もその中にあった。マッキンゼーに入社した動機やその後のキャリア、仕事論などが本にちりばめられていた。

 クアラルンプールには自分にとって、それほど見どころが多くなくツインタワーへの観光を終えると時間を持て余し、紀伊国屋で買った本をホテルでむさぼり読んだ。本を読むことに飽きると次の日の予定を思案する。キャメロンハイランドかペナン島に行こうか迷ったが、深夜特急の舞台にもなったペナン島に行くことにする。シャワーを浴びてベッドに横たわると勝間和代さんの本の中の一説を心の中で反芻する。

「組織に不満があれば、その組織を自分で変えればいい。変えられなかったら辞めればいい。もしくは自分で組織を作ってもいい。マッキンゼーの卒業生たちは、新たな挑戦をするときに躊躇しない。それは自分たちで組織を変える、デザインする、作るということが出来る自信があるからだ。」

その一節が心に刺さる。その言葉が心の中にまとわりついて眠りを阻む。俺は組織を変えようと努力したか?そう自問しているうちにいつしか眠りについた。