クアラルンプール駅の近くのスターバックスに立ち寄り、寝台列車発車までの時間をつぶす。考えるのをしばらくやめよう。席に腰掛け、窓辺に目をやると日本人風の美しい女性。試しにAre you Japanese?と声をかけてみた。Noという回答。残念に思い再び席につく。彼女はポーカーフェイスで煙草をくゆらせながら、コーヒー片手に英文の法律書のようなものを読み込んでいた。Noと言われたが、彼女に興味がわき、ちらちらと視線を送る。そうすると彼女がこちらにやってきて、一緒にコーヒーを飲もうと言ってきてくれた。お互い簡単な自己紹介を交わした。彼女の名前はCarmen Takkyで祖母が京都に住む日本人なのだそうだ。どうりで日本人と誤解したわけだ。今はオーストラリアの法律事務所で働いていて、現在帰省中とのことだ。私がよほど苦悶の表情で、考え事をしていたのだろう。彼女は一生懸命私を元気づけてくれて、一緒にハーゲンダッツの抹茶アイスを食べに行こうと私を外の店に連れ出してくれた。申し訳ないことに彼女が金を出してくれた。彼女に流れる日本人のDNAが抹茶を喚起したのかもしれない。抹茶のほのかな甘さと渋さが下の中で踊る。お互い連絡先を交換し、別れ際元気出してねと声をかけてくれた。自立心にあふれ、凛とした魅力的な女性だった。日本人女性特有の過剰な自己承認欲求が無い。彼女の黒髪の美しさが、夕焼けに映えて、別れた後も余韻を引いていた。また会いたい。